目次
はじめに
膝の前面痛と聞くと皆さんどんな原因を思い浮かべますか??
僕の場合、1年目の頃は変形性膝関節症の内側部痛のことを一纏めにして膝の前面痛と考えていました。笑
しかし、いろんな文献・参考書を読んでいくと前面痛というのは膝周囲の脂肪体によって疼痛が引き起こされているのではないかと考えるようになりました.
そこで、今回は脂肪体に焦点をあてて書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
膝蓋下脂肪体とは
脛骨大腿関節について
脛骨大腿関節は、自由度2の関節になり大腿骨と脛骨によって構成される関節になります。そのまんまですね。笑
解剖学的特徴として、大きな凸面の大腿骨顆と、ほぼ平坦で小さめの脛骨顆から構成されます。
関節の表面は広いため、膝の屈伸を伴う大きな膝関節運動が可能になります。
文献)筋骨格系のキネシオロジーより引用
しかし、骨性の適合は少なく筋・靭帯・関節包・半月板・体重による外力などによって関節の適合を得ています。
膝蓋大腿関節について
膝蓋大腿関節は自由度3の関節になり膝蓋骨と大腿骨で構成される関節になります。
これも脛骨大腿関節同様にそのまんまですね。笑
運動学的特徴として、大腿四頭筋の張力を効率よく伝えるという特徴があります。
これは、膝蓋骨が内的モーメントを高め、伸展時のモーメントアームが長くなることにより、効率よく筋力を使えることができるということです。
文献)筋骨格系のキネシオロジーより引用
つまり膝蓋大腿関節の柔軟性が低下すると、大腿四頭筋の過収縮を招き、筋スパズムによる疼痛を誘発しやすいと考えられます。
筋スパズムの記事に関してはこちら
膝前面の解剖
筋の位置関係
基本的な筋の位置関係として、中間広筋以外は基本的には体表から触診できるようになっています。
文献)骨格筋の形と触察法より引用
浅層には外側広筋(⑮)、大腿直筋(④)、内側広筋(㉒)が位置し、すぐ下の層には中間広筋が位置しています。
また大腿四頭筋は膝蓋骨上部で大腿四頭筋腱(⑦)となり膝蓋骨(⑤)を介して脛骨粗面に付着します。
膝蓋下脂肪体の位置
基本的に伸展位では膝蓋靭帯に押しつぶされるため、膝蓋靭帯の内側と外側で触診します。
膝蓋下脂肪体とは
膝蓋下脂肪体の役割
膝蓋下脂肪体とは、名前の通り脂肪組織であり、非常に柔らかい構造をしています。
役割として膝関節の円滑な屈伸を行うための『潤滑油』または『クッションの役割』をしています。
膝蓋下脂肪体の特徴
膝関節内では痛覚神経は、滑膜組織や膝蓋下脂肪体に数多く分布しています。
しかし実は関節軟骨や半月板や前十字靭帯などには痛覚刺激は存在していません!
また膝蓋下脂肪体は膝前面で唯一触診できる脂肪体になります。
文献)機能解剖学的にみた膝関節疾患に対する理学療法から引用
つまり、膝の前面が痛いという方に対して、膝蓋下脂肪体の圧痛の有無をするだけで、原因をかなり特定することができます。
膝蓋下脂肪体の解剖学的特徴
膝蓋下脂肪体は膝を伸展すると、脛骨大腿関節がしまりの肢位になるため前方に押し出されます。
反対に屈曲すると、後十字靭帯側に逃げてしまうため、正確に触診をすることが難しくなります。
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緩みの肢位・しまりの肢位とは
全身の各関節どこにでも、関節が最も緩む肢位・もっともしまる肢位があります。
ルーズバックポジション(loose packed position)、クローズドパックポジション(close Packed position)ともいいます。
緩みの肢位:関節の適合性が最も低く、関節周囲の組織や靭帯や関節包などすべての関節に影響する因子が緩んでいる状態になるポジションのこと。
主にモビライゼーションや、リラクゼーション時にこの肢位を取ることが多い
しまりの肢位:関節の適合性が最も高く、関節周囲の組織や靭帯や関節包などすべての関節に影響する因子が緊張している状態になるポジションのこと。
歩行時や立位姿勢の時は基本的にしまりの肢位。
ちなみに膝関節の緩みの肢位は軽度屈曲位(約25°)である。
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膝蓋下脂肪体と膝蓋上包の関係性
膝蓋上包とは
膝蓋骨の直上にあり、大腿四頭筋腱の深層に存在する滑液胞のことを指します。
膝伸展位は2重膜構造をしており、膝の屈曲とともに単膜へと変化していきます。
役割としては膝蓋下脂肪体と同じく円滑な膝の屈伸運動に関わってきます。
膝蓋上脂肪体と前大腿脂肪体について
膝蓋上包の前面と後面にはそれぞれ脂肪体が付着しています。
前面には膝蓋上脂肪体(Suprapatella fat pad)
後面には前大腿脂肪体(Prefemoral fat pad)
とよばれるものが存在しています。
文献)機能解剖学的にみた膝関節疾患に対する理学療法から引用
前大腿脂肪体は膝伸展位では大腿骨前面に幅広く位置しています。
屈曲時になると大腿骨前面に凸型の形態に変化し、大腿四頭筋腱は大腿骨から引き離されるため膝伸展モーメントを増大します。
一方で膝蓋上脂肪体は、膝屈曲時に内側と外側に広がっていきます。
これによって大腿四頭筋腱は大腿骨に近づくため伸長距離は短くなります。
つまり簡単にまとめると、前大腿脂肪体は筋出力増加に働き、膝蓋上脂肪体は大腿四頭筋腱の過伸展によるストレスを軽減させる働きを持ちます。
膝蓋下脂肪体との関係性
膝蓋上包とその前後に位置する脂肪組織が癒着を起こした場合、当然膝蓋骨の動きは制限されます。
また脂肪体が適切に機能するためには、脂肪体が自由に変化できるだけの柔軟性と、脂肪体を受け入れるだけのスペースを確保できる伸長性と、滑走性が必要となってきます。
このどちらか一方が障害されると、脂肪体由来の疼痛や可動域制限が生じてきます。
膝蓋上包と前大腿脂肪体・膝蓋上脂肪体の癒着が生じた場合、膝蓋下脂肪体の形態変化が制限され疼痛や可動域制限が生じます。
逆に膝蓋下脂肪体の柔軟性が失われた場合、同じく膝蓋上包やそれに付着している膝蓋上脂肪体や前大腿脂肪体の形態変化が行われなくなり、疼痛や可動域制限が生じます。
つまり、この2つの組織は相互関係にあり、また負のスパイラルを形成する要因にもなりえるということが考えられます。
膝蓋下脂肪体の評価
基本的に評価は圧痛所見を確認します。
膝伸展位で膝蓋骨の下縁を持ち上げ、裏面に圧刺激を入れるようにしてください。
この時膝関節屈曲位でも圧痛を認めた場合は、膝蓋下脂肪体ではなく膝蓋腱、膝蓋支帯、
浅・深膝蓋下滑液胞の原因を疑います。
文献)機能解剖学的にみた膝関節疾患に対する理学療法から引用
膝蓋下脂肪体の治療
基本的には膝蓋骨のモビライぜーションを行っていきます。
特に難しい操作ではないので患者にセルフエクササイズとしてそのまま指導できるかと思います。
●左右方向への膝蓋骨のモビライゼーション
●上下方向への膝蓋骨のモビライゼーション
●膝蓋靭帯を介して膝蓋下脂肪体へのダイレクトストレッチ
まとめ
膝の前面痛ということで少し疼痛の範囲を絞ってみて書いてみました。
なかなかイメージがしづらい場所になりますが、図と照らし合わせながら見ていただくと頭に入りやすいかなと思います。
治療をする際にイメージをしながら行うのと、しないとでは治療結果に大きくかかわってきます。
アプローチも行いやすく、患者へのセルフエクササイズへの誘導も比較的簡単にできる部位だと思いますので、ぜひ試してみてください。
今回も最後までご覧いただきありがとうございました。