肩関節の可動域測定を行うだけで満足していませんか??
学校習った肩の可動域評価といえば
- 屈曲
- 伸展
- 外転
- 内転
- 内旋
- 外旋
が基本です。
むしろこれ以外習っていませんでした。
しかし、これだけで患者の評価ができていると思いますか??
可動域を意味もなく測定することは時間の無駄です。
評価をもっと効率よく行い、原因を素早く特定する手段として、今回のブログタイトルである
ポジション別での回旋可動域評価
つまり肩甲上腕関節の1st、2nd、3rdの各ポジションでの評価をしましょうという記事を今回書かせていただきます。
1st、2nd、3rdポジションとは
1stポジションとは肘関節を90°屈曲した肢位になります。
(肩関節拘縮の評価と運動療法より引用)
1stポジションから肩関節90°外転した肢位を2ndポジションといいます。
(肩関節拘縮の評価と運動療法より引用)
さらに2ndポジションから90°水平屈曲した肢位を3rdポジションといいます。
(肩関節拘縮の評価と運動療法より引用)
何故ポジションを変えて可動域検査をするのか
肩甲上腕関節は上腕骨の大きな凸状の骨頭と凹状の浅い関節窩で形成される関節になります。
(肩の構造について 札幌里塚病院HPより引用)
骨同士の適合性は低く、良くテニスボールとゴルフピンといった例えをします。
その不安定性を補っているのが軟部組織である、関節包・筋肉・靭帯になります。
[aside type="normal"]
軟部組織とは
軟部組織とは、生体における骨格以外の支持組織のことである。
腱、靭帯、筋、筋膜、皮膚、脂肪組織などの結合組織を総称して軟部組織と定義される。
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また骨の適合性を犠牲にしている代わりに可動性が高く、人体の関節の中では最も自由度の高い関節となります。
しかし、デメリットとして軟部組織の影響を非常に受けやすいです。
アームスリングでの固定による不動化、ちょっとした肩の痛みによって生じる不動化によって軟部組織は拘縮をおこし可動域制限を作り出します。
先ほども説明したとおり、肩甲上腕関節は多くの軟部組織によって安定力を補っています。
評価時に可動域制限となっている軟部組織を一個一個調べていくのは非常に時間がかかります。
そこで評価項目として使うのがポジション別での回旋可動域評価です。
具体的にいうと、1stポジション、2ndポジション、3rdポジションでの内・外旋可動域測定になります。
なぜ回旋可動域なのか??
肩甲上腕関節は軟部組織の影響を強く受けており、軟部組織の伸長性を確実に評価することができます。
また特徴として、骨適合による制限が少ない、関節自由度が高い、最も可動性に富んでいるという特徴があります。
よって、筋・靭帯・関節包の走行を考え、前後面・内外側と3次元的に肩の軟部組織を捉えることができます。
以上の理由から各ポジションごとに回旋可動域を測定すると原因となる軟部組織が特定できるため、評価時間が短縮できるという結果が生まれます。
各肢位ごとの制限因子
肢位の変化によって肩甲上腕関節に付着する筋緊張は以下のように変化します。
[box class="red_box" title="肢位ごとの制限因子"]
1stポジション―――肩甲上腕関節の上方が伸長され、下方は短縮位になる
2nd・3rdポジション―――肩関節の上方が短縮し、下方は伸長位になる。
[/box]
またこれに加え内外転・内外旋の運動をくわえることによりさらに原因の軟部組織を特定することができます。
また軟部組織を分けると以下の図のようになります
(運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学より引用
例として
1stポジション外旋で制限がある+2ndポジション外旋で制限がない場合の患者がいると仮定します。
この時、外旋を制限する肩関節前方組織の中で、内外転の運動軸より上方に存在する軟部組織が原因だと断定することができます。
図を見ながら確認しましょう。
この時、前上方の領域に存在する軟部組織が原因と考えることができます。
このように、各肢位における回旋時に伸長される軟部組織を把握することができれば、臨床で肩関節疾患の方を評価する際に非常に強力な武器になります。
それでは各肢位ごとにそれぞれ伸長される軟部組織を見ていきましょう
これらすべてを文字で暗記するのではなく、走行をイメージして覚えるようにしましょう。
臨床で触診する際に、頭の中でイメージすることができるので評価が正確になります。
軟部組織を断定する方法
ある程度原因となる部位を絞り込めたら、次は細かく軟部組織を評価していきます。
筋肉の評価
筋の圧痛テスト
筋の圧痛は、筋の攣縮や炎症部位を捉えるうえで重要な所見となります。
圧痛を捉える際には、筋を適度に伸長した肢位にすると緊張を確認することができます。
また臨床上圧痛が好発する部位があります。
一般的には、
- 付着部
- 筋腱移行部
- 関節付近
で圧痛所見を捉えることができます。
圧痛所見を捉えることにより、筋の状態を知ることができ、治療プログラムへつなげやすくなります。
筋の攣縮と短縮の違いについての記事はこちら
筋の伸長性テスト
基本的には筋の起始と停止が離れる方向に誘導し、その可動範囲を評価します。
筋の伸長テストが陽性の場合、実際にその筋の緊張の有無を触診により確認してください。
これによって、その筋が伸長テストで制限因子になっていることを確認できます。
しかし、ここで注意しておきたいことは筋以外の組織(靭帯・関節包)が制限因子として関与することもあります。
そのため拘縮の原因を総合的に判断することが必要になります。
また、肩甲上腕関節に関わる筋の伸長テストを行う場合、肩甲骨の固定が必要になります。
1st、2nd、3rdの各ポジションによって肩甲骨の位置は変化するため、肩甲骨を固定する位置をあらかじめ決めておくと再現性が高くなり、正確な評価が行えます。
関節包靭帯の評価
関節包靭帯の機能解剖学
関節包の一部が肥厚し、靭帯の様な弾力性を有している繊維を関節上腕靭帯といいます。
関節包と関節上腕靭帯とは解剖学的に区分けするのが難しく、一体となって機能しています。
こうしたことから、両者を合わせて関節包靭帯と呼んでいます。
肩甲上腕関節の静的安定化は、この関節包靭帯の生理的な弾性と、関節内圧が陰圧であることで得られています。
(肩関節拘縮の評価と運動療法より引用)
小結節の上方に上関節上腕靭帯が、内側には中関節上腕靭帯が付着しています。
解剖頚の前下縁には前下関節上腕靭帯が、後下縁には前下関節上腕靭帯が付着しています。
関節包靭帯の評価方法
基本的には1st、2nd、3rdの各ポジションでの測定を行います。
この時、筋の緊張が可能な限り排除されている必要があります。
そのため関節包靭帯を評価する際には、筋の触診を行いつつそれぞれの可動域を評価してください。
そして、上記の図と照らし合わせながら行ってください。
最後に
肩関節の評価は見るポイントが非常に多く難しい疾患です。
しかし、原因となっているポイントを断定することができれば、評価効率は上がり治療効果も上がります。
今回の記事を理解することで、自分の臨床スキルが高まってきますので、ぜひこの記事を読んで自身の勉強につなげてください。
今回も最後までご覧いただきありがとうございました。
P.S 制限因子一覧表
制限因子一覧表を最後に記載しておきます。
もし、短時間で見返したい場合こちらを活用してください。
1stポジションでの外旋
- 棘上筋前部繊維
- 肩甲下筋上部繊維
- 腱板疎部
- 烏口上腕靭帯
- 前上方関節包
- SGHL(上関節上腕靭帯)
1stポジションでの内旋
- 棘上筋後部繊維
- 棘下筋上部繊維(横走繊維)
- 後上方関節包
2ndポジションでの外旋
- 肩甲下筋下部繊維
- 前下方関節包
- MGHL(中関節上腕靭帯)
- AIGHL(前下関節上腕靭帯)
2ndポジションでの内旋
- 棘下筋下部繊維(斜走繊維)
- 後下方関節包
3rdポジションでの外旋
- 大円筋
- 前下方関節包
3rdポジションでの内旋
- 小円筋
- 後下方関節包
- PIGHL(後下関節上腕靭帯)